東海道五十三次 歩きました。

2015年秋 お江戸・日本橋から歩き始め、2016年秋 京・三条大橋まで踏破しました。

35. 試練は続く いつまでも

箱根山中、決死の思いで道路を横断しました。
ああ、無事に渡れて良かった…

しかし ここで気を緩め 安堵した様子を見せてはいけません。
まるで何事も無かったかのように歩を進めます。

目指す方角は こちらで合っているはず。
もう地図は見ません。

暑い…
心拍数が上がり 冷や汗に濡れつくした身体に、真正面から冬の日差しが降り注ぎます。

けれども 確実に安全な場所に身を置くまでは、上着を脱いだり 水分を補給したり などと悠長に構えることはできません。

自信を持って どんどん歩いて行きますが、この道が正しいのかどうか 今なお半信半疑です。

やはり もう一度 地図を広げます。

A4サイズの地図を確認すると、右上の芦ノ湖・箱根峠から わずか3センチほどしか進んでいません。
目指すは左下のJR三島駅、まだずっと先です。

箱根峠から三島までは 長い長い下り坂。
国道1号を車が往来し、その横を歩いて行きます。
(歩道は あったり無かったり)
ところどころ 国道から分け入り、旧街道の石畳の道を歩きます。

箱根東坂 (登り坂) と同様、箱根西坂 (下り坂) にも往時の石畳の道が複数ヶ所にわたって残されており、坂にはそれぞれ名前が付いています。

緊張の糸を張り詰めたまま 国道を歩いてきましたが、
まもなく西坂で初めての 旧街道石畳の入口に差し掛かります。

ところが…
その入口に辿り着くためには、国道を横断しなければなりません。
車は ひっきりなしに走っています。

そう言えば 先ほど、道案内の看板が視界に入っていました。
" 東海道を歩く方は この信号で右側に横断してください。
ここから先に信号はありません。"

… こういうことだったのか。
なぜ、さっき あの信号を通り過ぎてしまったのだろう。
甘く見ていました。
とにかく先に進むことしか考えていませんでした。

振り返ると、青く点灯している信号機が遠くに見えます。
今さら あの信号まで戻る気力はありません。

それなら このまま国道を歩いて行く?
嫌だ。旧街道の石畳を歩きたい。

そうなると、残された選択肢は ただひとつ。
今この場で国道を渡るしかありません。

またもや試練の時がやって来ました。

右、左、右、左、右…
車の往来は途切れません。

人生において "決死の覚悟" をこんなに短時間のうちに2度も経験することになるとは、思いもよらないことです。

右、左、右…
よし、今だ!

心臓に大いに刺激を与えたところで、国道から逸れて歩いて行きます。

ここは江戸から25里 (100km) の地点、
東海道五十三次 全行程の 5分の1です。
京都まで あと100里 (400km) 。

旧街道の入口に差し掛かかり、地図を確認します。
この先しばらく、石畳が続くようです。

あずまや では1人の男性が休憩しており「こんにちは」と挨拶を交わします。
特に会話はしませんでしたが、出で立ちから察するに 何らかの目的で旧東海道を歩いているのでしょう。

本当は私も少し休みたかったのですが、日没までの残された時間が気にかかるため 足早に立ち去り 先を急ぎます。

f:id:ofuku53:20161003075154j:image

f:id:ofuku53:20161003075205j:image
静けさに包まれ 冷んやりとした旧街道。
旅人気分に浸りながら 坂道をどんどん下って行きます。
あまり弾みをつけ過ぎると 足をひねる恐れがあるので、常に前方と足元に気を配ります。

地図は8つに折りたたみ、ズボンのポケットに入れてあります。
こうすれば、いつでもすぐに取り出して 道を確認できるから安心です。

f:id:ofuku53:20161003075216j:image
辺りに人の気配はなく、とても静かです。
国道とは まるで雰囲気が異なります。
ごくまれに、前方から歩いてくる人とすれ違います。
おそらく、私とは逆方向、京から江戸に向けて 東海道五十三次を旅する人でしょうか。

そう言えば 先ほど休憩していた男の人は、どちらに向かって歩いていたのだろう。
京から江戸へ?
それとも、江戸から京へ?

いずれにせよ、旧街道を通るのは人だけです。
その点、国道を歩くときのように 車の往来に神経をすり減らすこともありません。

しかし この石畳も まもなく途切れようとしており、再び国道と合流する地点が見えてきました。

さて、地図を確認しようかな。

…あれっ?
たしか、ズボンのおしりの右ポケットに入れておいたはずなのに。
ない!
嘘…
きっとどこかで落としたんだ…

どこで?
石畳で落としたならば、風に吹かれない限り どこかに飛ばされていくことはないだろうけれど。
まさか国道で… ?
国道で落としたならアウト、二度と見つからない。

あの地図なしには、この先 箱根の山を下れない。
いや、下れないこともないけれど、かなりの不安がつきまといます。

それほど大事な地図なのに、なぜ無造作にポケットに入れておいたのだろう。
まさか落とすなんて、思いもよらなかった。

探しに引き返す?
しかし確実に見つかるとも限らない。

緊急事態に陥りました。
時間と心に 全く余裕はありません。

ああ、どうしよう…
絶望感に支配された私は、為す術もなく立ち尽くします。